階級/格差/誠実さ
錦織選手がジョコビッチに負けてしまいました。残念ですが,紙一重の差だったと思います。1ポイントでどう転ぶかわからないのがプロの世界だなあとしみじみ思いました。とはいえウィンブルドンでベスト8までいったのですから,おめでとうと言いたいです。次も期待しています。
● 階級意識
ゲーテ(山崎章甫訳)「ヴィルヘルムマイスターの修業時代(中)」(岩波文庫)のp22からの引用です。
<「貴族にとっては,ひとの気持ちをとらえることはたやすい。ひとの心をわがものにするのは易々たることだ。優しい,気持のいい,少しばかり人間的な態度だけで奇跡を呼び出す。そして,ひとたびとらえた心をつなぎとめておく方法にはこと欠かない。ぼくらにはすべてが手に入ることはめったにないし,なにをするのも彼らよりは困難だ。だからぼくたちが獲得し,なしとげたことにより大きな価値を置くのは当然のことなのだ。主人のために自分を犠牲にする従僕の例はまったく感動的だ。シェークスピアはそうした従僕を見事に描いている。この場合,誠実は自分より偉い人と同等になるための,高貴な魂の努力なのだ。従僕は絶えざる献身と愛によって,いつもは給料をはらってやっている奴隷としか考えないのを当然のことと思っている主人と,同等になるのだ。そうだ。献身と愛とは,卑しい身分の者のためにのみあるのだ。彼らはこの美徳なしではいられないし,またそれは彼らによく似合う。金で容易に恩返しできる者は,また容易に感謝の念をまぬかれようとする。この意味でぼくは,偉い人は友人を持ちうるが,友人になることはできないと主張できると思う。>
● 広がる格差,分離する意識
貴族と労働者は所有しているものも量も違いますから,このような意識の違いは当然出てきます。日本でも,明示的な階級はないものの,階層はあります。「一億総中流」と言われた時代から,格差社会となり,今後ますますその格差は広がっていくでしょう。その中で,当然意識の違いが生まれてくる。今でも,SNSをのぞいてみれば,意識の違いからくる諍いが絶え間なく起こっていることがわかります。
● 誠実さ
このような社会の中で,人々をつなぐものはなんでしょうか。もの=マテリアルの部分は,量的にも質的にも完全に分断されているとしたら,人と人をつなぐものはおのずと精神的なものになっていくでしょう。その中でも,誠実さについて,ゲーテは語っています。貴族ではないものの視点から,貴族と本当の友人にはなれずとも,完全に分断されることなくつながるには,誠実さを持つことであると。私はそのように感じました。自分がどのような立場にあろうとも,誠実さを失わないことだけが,社会の中の自分を保つうえで最も重要で,高貴なことであると感じました。
Labor to keep alive in your breast that little spark of celestial fire, called conscience.
- 作者: J.W.ゲーテ,Johann Wolfgang Goethe,山崎章甫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/02/16
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (8件) を見る